第40章 疑惑
毎月1度の、指導医との臨床実習面談。
実習開始からはや数ヶ月が経ち、折返しに差し掛かったこの頃。
覚えたこともたくさんあり、最初の頃よりも相談する悩みも無くなってきた。
来月からは医療現場で一番過酷と言われている救命センターでの実習に入る。
藍沢先生はもともと救命センターでフライトドクターとして勤務していた経験があるから、
「また色々と教えていただくかと思います」
なんて言いながら、会議室のドアを開けたのだけど
その真ん前で待っていた人物を見て、わたしの時間が止まった気がした。
まさか、ここにいるはずないと思っている人がそこに居たからだ。
「え…じ、陣平くん!?なんでここに…」
よく見ると、隣には佐藤刑事もいた。
間違いなく、仕事中だということはわたしにも分かった。
問題は、なぜ刑事の陣平くんがこの病院にいて、しかもまるでわたし達が部屋から出てくるのを待っていたかのように、こちらへ近づいてくるのか?ということだ。
そんなわたし問いかけに答えることなく、陣平くんはスッとこちらへ近づいてきて、わたしと藍沢先生の目の前に警察手帳を見せた。
よく、刑事ドラマで見るあれだ…
なんて呑気に思ったのもつかの間、陣平くんから思いもよらぬ言葉が飛び出した。
「藍沢海里さんですね。
時間、もらえますか」
「え…どういうこと…どうして、藍沢先生…」
刑事が警察手帳を見せて、話を聞かせてくれと尋ねてきた。
これはどう見ても只事ではないし、これがドラマと同じなら藍沢先生は何らかの事件の参考人…!?
突然のことに思考回路がうまく働かず、ただ目を丸くしてその光景を見ているわたしをよそに、藍沢先生は至って涼しい顔して答えた。
「警察の方が何の用ですか?」
「詳しいことは、後ほどお話します。」
「…わかりました。後30分でカンファレンスがあるので手短にお願いします。どうぞ」
そう言って、藍沢先生はさっきまでわたしと面談をしていた会議室に陣平くんと佐藤刑事を招き入れた。
バタリと閉まった扉は、先程よりも重い音がした。
わたしはその場でただ立ち尽くしていることしかできなかった。
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