第40章 疑惑
臨床実習も外科、内科と進んだあと、現在は産科の実習真っ只中だ。
今日は初めて分娩の補佐に入り、命が生まれる瞬間を目の当たりにした。
医者は、命が失われる瞬間を見ることが圧倒的に多いけれど、こうして命が誕生する瞬間を何度も見られるのが産科医のやりがいなんだと話すドクターが印象的だった。
陣平くんが帰ってきたら、今日のこと話そう。
そんなふうにワクワクしながら、わたしは陣平くんリクエストのカレーをお鍋で煮込みながらかき混ぜていた。
その時
「ただいま」
玄関から陣平くんの声がして、わたしは慌ててコンロの火を止めてお出迎えにリビングのドアを開けた。
「おかえり!」
「あぁ…」
わたしの顔を見るなり、なんとも言えない表情を見せた陣平くんは、そのままネクタイを外してジャケットを脱ぎながら寝室のクローゼットへと向かった。
疲れてるのかな…
というより、何か悩んでいるようにも見えた。
大きな事件に関わることになったと言っていたし、よほど大変な事件なんだろうか…
カレーを食べて元気になってもらわないと。
そう思い、出来上がったカレーを大盛りに盛り付けて、福神漬けやカトラリーと一緒にダイニングテーブルに並べた。
しばらくすると、部屋着に着替え終わった陣平くんがダイニングテーブルに着席した。
「いただきます」
いつもどおり律儀にちゃんと手を合わせていただきますをする陣平くんだけど、やっぱり少し元気が無いようだ。
いつもなら、好物のカレーを見ると目を輝かせて「うまそー!」と大げさすぎるほど喜んでくれるのに。
「陣平くん」
「んー?」
「仕事、大変なの?元気ないみたいだけど…」
「いや?そんなことねぇよ。
…ミコト」
「ん?」
次は陣平くんがわたしに何やら真剣な顔をして呼びかけた。