第40章 疑惑
ちょうど1階でエレベーターを降りたときに、低層階用のエレベータの前で待っていた住人を捕まえて、話を聞いてみるとそこから事件解決につながる証言が得られたのだ。
「ちょっとすみません。警察ですが」
「はい…?警察の方がなにか?」
「このマンションの高層階に住んでいる、権田原さんってご存知ですか?」
そう言って佐藤が差し出した写真を見た住民は、特段表情を変えずに頷いた。
「ええ。…でもこのところお見かけしていない気が」
「実は、今朝遺体で発見されたんです。」
「ええっ!」
「それで、権田原さんを恨んでいるとか、誰かとトラブルを抱えていたとかそういった話を聞いたことはありませんか?
些細なことでも構わないんです」
佐藤の呼びかけに、その女性はうーん。と考え込んだあと、ひらめいたように 「あ。」と声を漏らした。
「…そういえば、随分前の話になりますけど…
訴訟を抱えているという話を聞いたことがあります」
「訴訟?」
「はい。権田原さんと離婚された奥様の間に娘さんがいたんですが、15歳のときに病気で亡くなったんです。
確か、その件で彼女を担当していた主治医と訴訟問題を起こしたと噂で聞いたことがあります」
「その病院や、医師の名前はわかりますか?」
「そこまではちょっと…」
「そうですか。いえ、それだけでも十分です。ご協力、ありがとうございました。」
佐藤が聞き込みをする間、俺はずっとその住民の仕草を見ていたが、特に怪しい様子も嘘をついている様子も無かった。
礼をしてその女性がエレベーターに乗るのを見送ったあと、俺たちは刑事の顔をして話を始めた。
「その訴訟相手、調べてみる必要がありそうだな」
「そうね。おそらく警視庁のデータベースにあるはずだから、一度署に戻って調べてみましょう。
これ以上の情報は、このマンションからは得られそうにないし」
そのわずかな手がかりだけを頼りに、俺たちは一度署に戻って過去の訴訟履歴を調査することにした。
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