第38章 助けたかったのは
松田side
レスキューと一緒に、26階まで階段を駆け上がった。
本当は安全確認が取れるまではダメだと言われていたが、中にいるミコトと唯一連絡が取れる俺は、中に入ることを特別に許可された。
26階までの気が遠くなる階段を登る時、キツイとは全く思わなかった。
息はぜえぜえと上がるくせに、頭の中はミコトの無事を願うことでいっぱいだった。
26階の扉を開けて中に入ると、目の前に飛び込んできたのは複数の怪我をした人々。
そしてその中に、ある1人の男性を救命しようと心マを繰り返すミコトの姿があった。
ミコトはしきりにこう叫んでた。
「お兄ちゃん」
今日は11月7日。
3年前のこの日、萩原は今日みたいに爆弾によって殉職した。
きっとその兄と、そこの男性を重ねているんだろう。
どうしてだかわからねぇけど…
「ミコト…!」
きっともう、その男性は助からない。
ひと目見て、素人の俺にすらわかった。
なのに心臓マッサージをやめないミコトを止めようとした時、藍沢先生がその男性の目を開き、ペンライトを当てた。
そして、ミコトの肩に手を置いて静かに諭すように言う。
「萩原」
「っ…」
「対光反射もない。それ以上はもう…」
その言葉とともに、ミコトの心臓マッサージをする手に藍沢先生の手が重なった。
そしてゆっくりと、ミコトの動きが止まって、手がカタカタと震えている。
ミコトの目には、助けられなかった人間が横たわっている様子が映り、ミコトの目から一筋涙がこぼれた。
「……っ…ぁあああっ」
ミコトはその場で泣き崩れた。
ミコトが本当に助けたかったのは、他でもない
萩原だったんだ…
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