第38章 助けたかったのは
「陣平くん」
「なんだよ」
「お腹空いたからおにぎり買っておいて。梅のやつ」
わたしのその言葉に、陣平くんは受話器の向こうでハハッと笑った。
「…そんだけ食い意地張ってりゃ大丈夫だな」
「じゃあ、処置に戻るから」
ピッ
陣平くんの声を聞いただけで、大丈夫と思える。強くなれる。
深呼吸して、またトリアージを再開したそのとき
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
向こうから、女性の叫ぶ声が聞こえた。
只事ではない様子の叫び声を聞いて、わたしは急いでその声のする方へ走った。
そこに居たのは、わたしと同い年ぐらいの女性と、その前で横たわるお兄ちゃんと呼ばれている男性。
「どうしました?」
「お兄ちゃんが、ぐったりしてて目を開けなくて…!」
「失礼します。
米花中央病院の萩原ですー。大丈夫ですか?聞こえますか?!
…反応ない…」
男性のそばに腰を下ろし、身体を叩いて呼びかけてみるが反応を示さない。
爪をグッと押してみて、痛み刺激に反応があるか見たけれどそれもない。
ペンライトを使って瞳孔を見てみると、左右差が出ている。
藍沢先生も、女性の叫び声を聞いてこちらへ駆けつけてくれた。
「どうした?!」
「瞳孔不同、脈、呼吸共に弱いです。痛み刺激にも反応しません」
「代われ」
そう言って患者の状態の確認を始めた藍沢先生。
「…心肺停止寸前だ。本来なら、開胸心マしたいところだが…」
そう溢すが、今ここにもちろんその処置をするための道具は何一つない。
出来るのは、胸部圧迫による心臓マッサージのみというこの状況。
藍沢先生は男性に跨り心マを開始した。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!!」
妹だと思われる女性がその男性の手を握り、何度も何度も呼びかける中、必死の救命活動が続く。