第38章 助けたかったのは
17時
講演会を終えたわたしは27階の講演会会場からエレベータを使って1階まで降りていた。
「…ったく。俺たちが一番最後だ。
お前の質問がこんなに多いとは思わなかったよ」
「だ、だって…あんなすごい方たちとお話できるなんて滅多に無いんですよ?!」
講演は16時に終了し、その後希望者は自由に登壇した医師たちと質疑応答や話せる時間が設けられた。
聞きたいことが尽きないわたしは、会場から人が居なくなるまで話を聞き続けて1時間。
気付けば会場を出るのが一番最後になっていた。
「でも、本当にいい経験でした。藍沢先生、誘っていただいてありがとうございました」
東京国際会議場のエントランスを出て、藍沢先生にペコリと頭を下げたときわたしはハッと思い出す。
「あ…あれ?」
「?どうした?」
「会場に、テキスト忘れたかもです…
なんかカバンが軽いなと思ったら…」
椅子に座った時、鞄を足元に置いたのだが、講演会中に足が当たってカバンの中身が飛び出した瞬間があった。
きっとそのとき、シートの下に入って拾い損ねたんだ…
「…取りに行くか」
「や、いいです。わたしひとりで取りに戻ります!
藍沢先生は、ここで…」
「いや、取りに戻るだけだし、お前また教授に聞き忘れたこと聞いていいですか?なんて言いそうだから見張りとしてついてく」
「…読まれてる。
じゃあ、すみませんが…」
と、わたしたちは揃ってまたエレベータに乗り込み再び講演会場のホールがある27階を目指した。
「17時15分…陣平くん、もうお仕事終わったかな…」
腕時計を見ながらぽつりとつぶやくわたし。
藍沢先生が首を傾げた。
「陣平くん?」
「あぁ、わたしの恋人で。
今日の夜を外で食べようと約束していて」
そういえば、携帯の電源切ったままだ。
陣平くんから連絡が来ているかもしれない。
そう思い携帯の電源を入れたとき、ちょうど26階のフロアでエレベーターが止まった。
どうやら、誰かが上に行くためにエレベーターを呼んだらしい。
エレベーターの扉が開くその瞬間は、いつもと同じ光景だった。
それが、次の瞬間
ドォーーーーーーン
大きな音と、閃光が走った。
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