第36章 疑惑の朝帰り
やっぱりお腹空いてるんじゃない。
なんて顔でちら…と藍沢先生を見ると、観念した先生はわたしが持っていた保冷バッグをひょいと持ち上げた。
「…いただきます」
「どうぞ!」
自分のデスクに座ると、保冷バッグからお弁当箱を取り出し、中身を開けて律儀に手を合わせていただきますをした先生は、ほうれん草のおひたしに箸をつけた。
「…うん。美味い。」
「良かった…!
それにしても先生、ずっとこんな働き方してるんですか?
勤務記録見てたら、当直に入る頻度他の先生より多いし…」
「…俺には、これしかないからな」
これしか無いって…
働き過ぎで身体壊したら元も子もないのに。
そう思いながら、お弁当を食べ進める藍沢先生を眺めていると、医局の内線が鳴り響いた。
プルルルル
コールが鳴ると、藍沢先生はすぐに箸を置き、その電話をとる。
「はい、外科医局。
…はい。…わかりました、すぐに向かいます」
「先生?」
「急患だ。ちょっと行ってくる。
…お前は、終電逃す前に早く帰れよ」
そう言い残し、またもや患者のところに走っていく藍沢先生。
まぁ、当直だから当然なのだけど、ふと藍沢先生のデスクを見るとカルテのファイルが大量に積まれてある。
きっと、これ明日までに整理するつもりだよね…
「終電まで、手伝おう…」
自分の指導医の仕事量の多さに慄きながらも、少しでも役に立てるよう、わたしは自分がわかる範囲でのカルテの整理を始めた。
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