第36章 疑惑の朝帰り
実習といっても、病院は戦場だ。
時間が一瞬で過ぎ去り、定時なんてあっという間にやってくる。
担当している患者さんのカルテを書き終わり、さらに日報の提出も終えたわたしは、藍沢先生に言われた通り定時で外科医局を後にした。
今日は金曜日。
明日、明後日と久しぶりの連休だ。
今日の夕飯は何にしようかな…
いつものように、陣平くんが食べたいものは何だろうと頭を巡らせてスーパーで材料を購入し、鼻歌を歌いながら帰宅するわたし。
キッチンに立ちながら時計を見上げてふと思った。
そもそも、陣平くんは今日何時に帰宅するんだろう。
最近、わたしも忙しくてお互いの帰宅時間を細かく連絡する習慣が薄れてきている気がする。
夜中になっても食べられるように、冷めても美味しく食べられる味付けにしよう。
と、主菜や副菜を作ってタッパーに詰め、わたしが寝た後でも陣平くんがわかりやすいように、付箋を貼って冷蔵庫に保管した。
そのとき、ハッとあることを思い出した。
「あ!!しまった!
テキスト、医局の机の上に置いたままだ!」
週明けの月曜日に提出する予定の小論文を書くためのテキストを、医局のデスクに置いてきてしまったことに今更気づいたわたし。
「取りに戻らなきゃ…」
はぁ…とため息を吐いたわたしはふと思い立った。
藍沢先生、夕方からオペに入るって言ってたけど、夜ご飯どうするんだろ…
カフェテリアもコンビニも閉まってるよね…
よく言えば面倒見がいい、悪く言えばお節介焼きなところ、きっとお兄ちゃん譲りだ。
わたしはお弁当箱にさっき作ったおかずの一部とご飯を詰めると、また病院へと戻った。
*
*