第36章 疑惑の朝帰り
松田side
夕方、担当事件の聞き込みに向かうため、俺は佐藤の助手席に腰を下ろした。
ミコトの実習がスタートしてから1週間、ミコトに実習であった出来事を聞いたりすると、必ず藍沢先生という名前が出てくる。
イライラを隠しつつも、実習で頑張ってるミコトの話を聞いてやると、ミコトは俺にぎゅーっと抱きつきながら、陣平くん大好き。なんて言ってくる。
まあ、ミコトが好きなのは俺だしな。
医者として尊敬してるってだけで、男として好きなわけじゃない。
そう言い聞かせては、またミコトの口から藍沢先生という単語が飛び出してイラッとする。
その繰り返しだ。
窓の外を見ながら、はぁ…とため息を吐くと、佐藤が心配そうに俺を横目で見た。
「どうしたの?最近ため息多いわね」
「まあ…ちょっとな…」
「もしかして、あの可愛い彼女に浮気でもされたのかしら?」
「っんなわけねぇだろ?
ミコトは浮気なんて絶対しねえ」
と、ムキになって咄嗟にミコトを庇う俺。
ため息が多くなったのは、絶対ここ1週間だ。
原因もはっきりとわかってる。
けれどふと思う。
こんなことでイライラして嫉妬してる俺は、もしかして相当な束縛男か…?
ふと不安になった俺は、おもむろに佐藤に尋ねた。
「なあ、あんたは憧れの人っている?」
「はあ?何よいきなり」
「いねぇよな。そうだよな」
勝手にいないと決めつけた俺に、佐藤は声を荒げて言った。
「失礼ね!私にだって憧れの人ぐらいいるわよ!」
「ほぉー。そんなもんか…
ちなみにだれ?」
「…目暮警部」