第36章 疑惑の朝帰り
実習が始まってから、1週間が経った。
藍沢先生の指導のもと、患者さんの診察をしたり、カルテの整理を手伝ったり、時にはオペに入ったりして、学ぶことは盛りだくさんだ。
ようやく午前の診療が終わり、ランチしようと食堂に足を踏み入れた時、遠くに藍沢先生がランチしているところが目に入った。
「先生、ここいいですか?」
「…どうぞ」
藍沢先生の隣の席を指差してそう尋ねると、置いていた荷物を少し寄せて席を空けてくれた。
「さっきの脳出血のオペ、すごかったです…
出血箇所を見つけるのも早いし、縫い方も綺麗で器用で…
神の手みたいでした…」
さっき見た、藍沢先生のまるで流れるような綺麗なオペを思い出してじーんと感動していると、藍沢先生は呆れた様子でわたしを見た。
「…変わってるな。まだ学生のうちから縫い方とか、出血点なんかに着目するとは。
普通、オペの雰囲気自体にまず圧倒されるものだけど」
「えっ!そ、そうですか?!」
「…まあいい。
俺、今日当直で夕方からオペ入るから、お前は定時になったらキリいいところで帰れ。
日報は明日確認する」
「え…先生、昨日も当直でしたよね…?」
「あぁ。今日当直担当だった先生が急に出られなくなったから、交代した。」
相変わらず、仕事第一だな…この先生。
昔…というか、未来の藍沢先生もそうだった。
誰よりも遅くまで残って仕事して、オペには人よりも多く入ろうと数をこなしてた。
かと思えば、朝から病院の周りをランニングしたりしてて、本当いつ休んでるんだろうと疑問だったけど…
名医と呼ばれてる影では努力家なんだろうな…
そんな藍沢先生の身体を心配しつつも、わたしはラッキー今日は早く帰って陣平くんとご飯が食べられる!なんて、内心呑気に喜んでた。
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