第36章 疑惑の朝帰り
そんなこんなで藍沢先生について病棟の患者さんに挨拶をしたり、カンファレンスに一緒に出たり、外来の患者への告知に同席したりと、初日の実習は怒涛の速さで流れた。
初日だからと定時で帰してくれた藍沢先生。
けれど脳外科ってやっぱりハードだ…
明日からきっと、もっと覚えなきゃいけないことが増えるんだろう。
とは言え、まずは初日を乗り越えた自分を讃えてあげようと、帰り道スーパーに寄ったわたしは、お気に入りのアイスクリームを二つと、夕食の材料を買って家に帰った。
「ただいまあー!」
と勢いよくドアを開けたはいいものの、22時に帰ると言っていた陣平くんがいるはずもなく。
ひとまず、空腹の彼が帰ってきたらすぐにご飯が食べられるように準備をしよう!
そう思い、キッチンに立った。
その時
ピリリリ…
誰かから電話がかかってきたらしく、携帯の着信音が聞こえた。
表示を見ると、陣平くん と書いてある。
「もしもし!」
「お。もう実習終わってたのか。
初日、おつかれさん」
「うん、今日は定時で!
陣平くんは?今日22時って言ってたけど…」
「これから警視庁に戻って、日報書いたら帰れる。予定より少しだけ早く家に着きそうだ」
「ほんと?待ってる!
今日はね、生姜焼きにしたの!」
「おー。美味そう。
なるべく早く帰るわ。じゃあな」
陣平くん、忙しいのにわざわざ電話かけてきてくれた…
タイムスリップして、付き合ってもう4年経つのに相変わらず陣平くんにいちいちドキドキキュンキュンしてるわたしは、病気だ。
そしてこの病はきっとこの先も一生治らない、不治の病。
こんな幸せな病気にかかって、笑みしか溢れないわたしは、鼻歌を歌いながらまた料理を再開した。
陣平くんにただ喜んでもらいたくて愛を込める、クッキングタイムは1人で過ごす時間の中で1番幸せなのかもしれない。そう思った。
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