第36章 疑惑の朝帰り
「おや?藍沢先生、知り合いですか」
「…誰?」
「ちょ、ちょっと!忘れたんですか!?
あの合コ……じゃなくて、交流会で一緒だったでしょ!?」
何なら、あと数センチでキスしてしまうぐらい顔近づけたこともあったんですけど!
忘れたの!?
と、忘れられていることに驚きを隠さないでいると、藍沢先生はうーん。と宙を向いて思考を巡らせた後
「…あぁ。あの時の」
「爪楊枝で輪ゴム運ぶゲームまでやったのに…(未遂だったけど)」
「患者の顔と名前を覚えるので精一杯だ。」
そうだった…こう言う人だった…
患者の脳みそしか興味がない男…
相変わらず他人に興味を示さない元指導医(というかたった今現指導医になった)
まあ、知らない人と組むよりもやりやすいか…
と、心の中で落ち着け落ち着けと言い聞かせていると、説明は続く。
「今発表した指導医とペアになって、外科病棟での実習を進めてもらいます。
また、今後は内科、救命、精神科、産科…と実習は全ての科を回ることになりますが、今発表した指導医は臨床実習全般の指導医と思っていただき、悩みや不安、わからないことがあればいつでも相談するようにしてください。
では、実習頑張ってくださいね!」
と、ここまで案内をしてくれたお偉いさんらしき先生は、指導医に任せて颯爽と去っていった。
周りを見るとみんな指導医と自己紹介を交わして和気藹々とした雰囲気が流れる中、わたしも恐る恐る藍沢先生にペコリと頭を下げた。
「よ、よろしくお願いします」
「…先に言っておく。
俺は、手取り足取り指導する気は無いから。
見て、やって、覚える。それだけだ」
「はい。わかってます!」
藍沢先生のこの指導方法は、かつて痛いほど味わった身なので、開口一番そんなことを言われても少しも動じないわたし。
むしろ、久しぶりに医療現場に臨めるのでワクワクしてたりする。
タイムスリップしてはや4年目。
つまり4年ぶりに患者さんと触れ合うことになり、内心ドキドキとワクワクしている自分がいる。
医者になるのは二の次。
なんて言ったけど、出来れば両方手に入れたいな…
陣平くんを救う未来と、医者になる未来。
どちらも叶えたいと思うのは、甘いんだろうか?
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