第36章 疑惑の朝帰り
松田side
ミコトを無事に送り出した後、俺も出かける準備をして警視庁へ出勤した。
「っすー!」
「松田くん。ちょうど良かった!
今から米花町4丁目に向かうからあなたも来て!」
「ったく。いきなり事件かよ」
「それも殺人。ほら、行くわよ!」
今日は庁内で担当事件の聴取のまとめをやろうと思っていたのに、また新しい時間の幕開けらしい。
この街、絶対呪われてるぜ…
そう思いながらも、俺は佐藤の助手席に乗り込んだ。
ため息を吐きながらシートベルトをした瞬間、ジャケットの袖についてるボタンを金具に引っ掛けて、ボタンが一つプツッと飛んだ。
「あー…ボタン取れちまった」
「そんなの、あの可愛い彼女につけて貰えばいいじゃない」
佐藤はハンドルを握りながら半ば投げやりにそう言った。
「ミコト、今日から臨床実習なんだ。
だから、これぐらい自分でやらねぇと」
「臨床実習…あぁ。そういえば東都大医学部の学生って言ってたわね。」
「よく覚えてるな。」
一度ミコトのことを話した時、東都大学医学部という情報を伝えたことを今思い出した俺。
それを佐藤はしっかりと覚えていたことに驚きの声をあげた。
さすが、叩き上げの警視庁捜査一課の女刑事。
一度聞いた情報は全部頭に叩き込んでるってか?
そんなふうに感心する俺に、佐藤は少し不機嫌そうに眉を顰めた。
「…覚えてるわよ」
俺はこの時、何故佐藤がミコトの情報をちゃんと覚えていたのかも、
何故、こんなに不機嫌そうに顔を曇らせたのかも、
何も知らなかった。
その答えを知るのは、もっともっと後のことだった。
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