第36章 疑惑の朝帰り
ちょうどその時、エレベーターが到着してそれに乗り込もうとした瞬間
「ミコト!」
「?」
名前を呼ばれて振り返ると、陣平くんがわたしを追いかけて走ってきた。
「なに?どうしたの?」
「忘れ物」
「え!何か忘れたっけ?」
慌ててバッグの中身を確認するわたしの手を引いて、陣平くんの唇がわたしの唇に重なった。
ちゅ…
と触れるだけのキスを堂々とマンションのエレベーター前でやってのける陣平くん。
「行ってらっしゃいのキス」
「…っ…い、家の中でしてよ!!」
「だから、忘れ物って言っただろ?」
そう言ってイタズラっぽく笑う陣平くん。
ある意味最強のドーピングをもらったわたしは、お返しに彼のほっぺにキスをしてエレベーターに乗り込んだ。
「実習中、さっきのキス思い出して悶えそう…」
はぁあ…と赤くなった頬を両手で冷やしながら1階のエレベーターホールに降り立ったわたしは、とぼとぼと駅に向かって歩き出した。
*
*