第36章 疑惑の朝帰り
けれどわたしの臨床実習の目的は、医者になることよりも重要なことがある。
陣平くんの殉職を阻止するための足がかりを作ること。
お兄ちゃんも、過去と同じ日同じ場所で殉職した。
タイムスリップする前、お姉ちゃんから聞いた話だと、陣平くんは爆弾犯の仕掛けたもう一つの爆弾のありかを示すヒントを見るために、自らの命を引き換えにした。
つまり陣平くんも、26歳になる来年の11月7日にあの観覧車で米花中央病院を救う選択をするはずだ。
わたしはその前に、米花中央病院に仕掛けられるであろう爆弾の場所を突き止める。
そしたら、陣平くんはあの観覧車の爆弾をヒントを見る前に止められる。
そのためには、この臨床実習で米花中央病院に入り、さらに実習が終わった後の来年11月の時点でも違和感なく出入りできるよう、実習後のコネクションを作らなければいけない。
医者になるためよりも、そちらの方が遥かにわたしにとって重要だった。
その使命を心の中で再確認したわたしは、バッグを肩にかけると玄関へと向かった。
「じゃあ、わたしそろそろ行くね?
今日は初日だし、定時で帰ると思うから夜はわたしがおかえりなさいするね!」
「あぁ。俺も22時までには帰るわ。
じゃあ、はい。」
そう言って陣平くんは両手をパッと広げた。
「?」
「ぎゅーしてやるから」
「うーー!!」
きゅーんと胸が高鳴り、思わず陣平くんの胸の中に飛び込んだわたし。
あぁ…癒される…
今日からしばらく忙しい日々が続くけど、きっとわたしと陣平くんは大丈夫。
抱きしめられただけでこんなに癒されるんだもん。
名残惜しくて離れずに抱きついていると、陣平くんはわたしの頭を撫でながら身体を離した。
「ほら、時間だ。」
「ん…じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
言葉を交わして手を振ると、わたしは自宅を出てエレベーターへと向かう。
腕時計を見ると時間は少しだけ余裕がある。
駅まで走らなくてもよさそうだ。