第36章 疑惑の朝帰り
いよいよ今日から臨床実習がスタートする。
臨床実習とは、共用試験に合格した医学生が実際の現場医療を学ぶため、1年かけて病院の各科を回る、医学部最大に忙しい期間だ。
指導医のもと実際の患者さんを担当したり、オペ見学や処置の実習など、現役医師と同じスケジュールをこなしながらさらに勉強も進めなければならない。
そんなハードな実習が始まるこの日の朝、わたしと陣平くんは珍しく朝ごはんを一緒に食べていた。
「陣平くんが朝ゆっくりなの珍しいね」
「今日は、ミコトの実習が始まる日だからな。」
ズズッと味噌汁を啜りながらそう言う陣平くん。
その言葉の相関関係が分からず、鈍感なわたしは首を傾げた。
「?実習が始まる日だからって何で朝いるの?」
「いつも俺を見送ってくれるだろ?
今日は俺がミコトを行ってらっしゃいって見送りたかったんだよ。」
「陣平様ぁ!!優しい!!嬉しい!好き!」
陣平くんの気遣いに、はわぁあ!とテンションを爆上げしているわたしを見て、陣平くんは呆れたように笑った。
「随分余裕だな。臨床実習って聞くところによっちゃ、なかなかキツいんだろ?」
「まぁ…2回めだし…」
「?2回め?」
「ん??いや?何でもないよ!
んー!今日の卵焼きも美味しい!」
タイムスリップする前に、しっかり実習を終えて医師になったわたしにとっては臨床実習は2回めだ。
この不思議発言にも慣れたのか、陣平くんは特にツッコミもせず、口元に米粒をつけながらおにぎりを頬張っている。
「でも、しばらく朝ごはん用意も出来ないかも…
おにぎりだけは作るから」
「無理すんなって。俺はお前に世話にしてもらうために一緒に住もうって言ったわけじゃねえよ」
「陣平くん…」
「医者になるって、萩と約束したんだろ?」
そう言って陣平くんは優しく笑った。