第35章 もう一度会いたい人 ☆
お兄ちゃんに会いたい
ずっと胸に秘めてきたその願いが、ひょんなことが杭が外れて堰き止められなかった。
こんなに号泣するのは久しぶりで、楽しいデートのはずが一気にしんみりした空気に変貌してしまう。
それでも陣平くんは優しかった。
文句を一つも言わず、ずっと優しく抱きしめながら俺がいると何度も言ってくれた。
陣平くんといると、心が全部洗われて思ってること全て曝け出してしまう。
わたしは陣平くんの肩に寄りかかりながら、鼻を啜って話を始めた。
「小学生のときね、わたしも動物園で迷子になったの」
「ふ…だってお前、大人になった今でも迷子になりそうだもんな」
「…いじわる。
…あの時も、目の前にいる動物に夢中で走り回っていたら、気付けば周りにいたはずの両親もお姉ちゃんも、お兄ちゃんも姿が見えなくて。
だけど、小学生で迷子なんて恥ずかしいって思ってたから、泣くのを我慢して一人で近くのベンチに座って俯いてたの。」
「変なとこ、意地っ張りだからなーミコトは。」
わたしの幼い頃のエピソードを、目を細めながら聞いてくれる陣平くん。
陣平くんは寄りかかるわたしの頭を優しく大事そうに撫でてくれた。
「1時間ぐらい、ずーっとそこで待ってたんだけど迎えに来なくて、閉園時間も近づいてきてるしどうしようって思って…
ついに大泣きしそうになったとき、声がしたの。
ミコトーって呼ぶお兄ちゃんの声。」
お兄ちゃんがわたしを見つけてくれたとき、わたしの頭を撫でて言ってくれた。
「泣くの我慢して、偉いな。
さすがにいちゃんの妹だ!」
その時のお兄ちゃんが、わたしにとってはスーパーヒーローに見えた。
「だから、さっきのサクラちゃんとお兄ちゃんを見てたら、自分とお兄ちゃんと重なって見えて無性に会いたくなったの。
お兄ちゃんに、会いたい…」
「…俺も、会いてえなー。萩原に」
そう言って陣平くんは空を見上げた。