第35章 もう一度会いたい人 ☆
松田side
「良かったな。無事に家族の元に帰れて」
一件落着。という風に笑いながら隣にいたミコトを見ると、ミコトの目からポロポロと涙が溢れていた。
「ミコト…?」
「っ…うぅぅ…」
堰を切ったように泣き出したミコト。
理由が全くわからないまま、とりあえずベンチに座ってミコトの肩を抱き寄せて宥める俺。
「どうした?腹でも痛いか?」
俺の問いに、ミコトはブンブンと首を横に振って涙が止まらない様子だ。
泣いてるせいでうまく呼吸が出来ずに途切れ途切れの声で、ミコトはポツリとこぼした。
「お兄ちゃんに…会いたい…」
「ミコト…」
「会いたいよ…っ…」
絞り出すようにそう叫んだミコトは、その場で泣き崩れた。
萩が居なくなって、こんな風に号泣するミコトを見るのは初めてかもしれない。
葬式の時は、壊れたようにただ涙だけ流していた。
俺と付き合ってからは、俺がどっかに言ってしまうとかよく分からないことで泣くことはあったがこんな風に萩のことで泣き喚いたことはなかった。
「ミコト…泣くなよ…」
萩原…
ミコトはお前を亡くして、まだずっと悲しみの中にいるんだよ。
どこにいんだよ萩原…
ミコトが会いたがってる。
早くそばに来て、抱きしめてやれよ…
そう思ったけれど、萩原が現れるはずもない。
俺は泣いてるミコトの涙を指で拭い、半ば強引にミコトの唇を奪った。
「っん…」
白昼堂々、動物園というハートフルな場所でキスする俺たちを、周りの人は迷惑そうに見てる。
俺はミコトから唇を離すと、ミコトを力一杯抱きしめて言った。
「俺は居なくならない」
「…」
「萩原のぶんも、俺がそばにいてやる」
そう言うと、ミコトは少しだけ安心したように力を抜いて、俺に身体を預けてきた。
萩原が残していった華奢な身体を、俺はひたすらに抱きしめ続けた。
俺はここにいる。って伝えたくて、何度も。
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