第35章 もう一度会いたい人 ☆
俺はミコトの肩を抱き寄せると、佐藤に言う。
「そういや、前にIKEAで会ったとき、ちゃんと紹介してなかったよな。
俺の彼女。萩原ミコト」
「えっと…萩原です。陣平くんがいつもお世話になってます」
さっきまで膨れていたくせに、突然よそ行きの顔してぺこりと頭を下げるミコト。
「佐藤です。全然…お世話なんて。
…じゃあ、私はこれで。下で白鳥くんを待たせてるし」
佐藤はそう言うと足早に玄関を出て行った。
「ったく。ほんと、よく働くねえあの女」
呆れたようにぽつりとそう溢した俺。
ミコトはそんな俺の腕にぎゅっとしがみついてきた。
「?どうした?」
「彼女って紹介してくれたのが、嬉しくて!!」
そう言ったミコトはさっきまでの不機嫌はどこへやら。
ケロッとした顔して嬉しそうに笑いながら俺の腕にすり寄ってくる。
「女ってわかんねぇ…」
俺が何度言葉でミコトに大丈夫だと説明しても納得しなかったくせに、佐藤に彼女だと紹介しただけでころっと上機嫌になる。
ミコトと付き合ってから、女の扱いに慣れていた萩原を何度尊敬したことか…
「そんな呆れた顔しないで?今日はお休みで一日一緒にいられるんでしょ?」
「そうだな。で?どこ行きたい?」
「え!?どっか連れてってくれるの?」
まさかの提案に目から鱗のミコトは大きい目をまんまるに見開いて俺を見た。
「休み一緒に過ごせるのなんて、滅多にねえからな。
どこでも行きたいところ言えよ」
「動物園に行きたい!!!!」
「…ど、動物園…?」
映画とか、お洒落なカフェとか、夜景が見える場所とか、もっと大人のカップルらしい場所を言えよ!
なんて、俺だって恋愛初心者のくせして何言ってんだ。
そう思い直した俺は、ミコトの頭をぽんぽんと撫でながら言った。
「じゃあ、動物園行こうぜ」
「うん!!着替えてメイクしてくる!!」
昨日の不機嫌はすっかり吹き飛んだらしい。
ミコトは鼻歌を歌いながら服を選ぶためにまた寝室へと向かった。
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