第35章 もう一度会いたい人 ☆
わたしは思った以上に嫌味で、ヤな女らしい。
「わざわざお家まで届けてくれるなんて、優しいね」
優しいなんて、カケラも思ってないくせにそんな風に言ってしまった。
陣平くんからしたら、何故ここまで佐藤さんにやきもちを焼くのか不思議で仕方ないだろう。
ただの同僚で、何なら教育係でバディ組んでる仕事仲間。
けれどわたしには、あの日の夜佐藤さんがこぼした寝言が気になって仕方ない。
松田くんって呟いたあと、好きって言ったよね…?
寝言なんだし、偶然そういう夢を見ていただけかもしれない。
わたしもたまに芸能人と付き合う夢とか見るし。
でも、他の女の人の夢に陣平くんが出てきたことすら嫌だって思ってしまうの。
今日も携帯を届けにくるけど、きっとわたしがいませんようにって思ってるに違いない。
わたしなら、そう思うもん。
好きな人に彼女がいても、わたしなら諦めきれない。
「ミコトさーん」
相変わらず膨れっ面をするわたしを、陣平くんはあやすように大きな腕で抱きしめてくれた。
「…なに?」
「よしよし。拗ねんなって」
そう言ってぎゅーっと抱きしめられて頭を撫でられると、沈んでたわたしの気持ちは一瞬にして浮かんでくる。
陣平くんは、わたしの扱い方をよく知ってるみたい。
「拗ねてないもん」
「フグみてぇに膨れてるくせに」
「ふ、フグ!?」
「ほら!フグみてぇだ。っははは」
わたしの膨らんだ頬をむぎゅっと指で潰しながら笑う陣平くん。
拗ねてるのに、そんな屈託ない顔して笑われたら毒気抜かれちゃうじゃない…
意地を張っていたわたしの意固地が溶かされて、つい本音が口から滑り落ちた。
「佐藤さん、美人なんだもん」
「え?」
「美人だし、サバサバしてておまけに刑事って事は男勝なんだろうし…
うちのお姉ちゃんと似てる。」
そう。
これが普通の女性なら、わたしもここまで敏感にならなかった。