第34章 嫉妬の嵐
こんなに人が大勢いる都会の歩道のど真ん中で、松田くんは彼女を両腕でぎゅっと抱きしめた。
抱きしめながら、何度も何度も髪を撫でて、まるで宝物を愛でるみたいだ。
そしてそのあと、2人は長いくちづけを交わした。
わかってたのに。
松田くんに彼女がいるってことも、その彼女をどれだけ大切にしてるかってことも。
だけど2人のキスシーンを見て、平然と忘れ物を渡せるような図太さは無かった。
私は松田くんの携帯を握りしめたまま、ゆっくりと身体を翻してまた店へと戻った。
ダメだ。このままじゃ…
忘れないと。諦めないと…
目暮警部が無事に届けることができたか?と聞いてきたけれど、追いつけなかったと笑って嘘をついた私。
私が私じゃ無くなっていくような気がして、怖かった。
片想いの怖さを、初めて知った。
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