第34章 嫉妬の嵐
そう思い、荷物を持って席から立ちあがろうとした時
「おっ!やっと来た!
おーい、こっちこっち!」
テーブルを囲んでいた男性メンバーの1人が、入口から入ってきた人物を見て、手招きを始めた。
どうやら遅れていた米花中央病院の医師らしい。
わたしはつられて彼が手招きする人物へ目を向けた。
そこにいたのは、わたしがタイムスリップする前に面識のあったドクターだった。
「あ…藍沢先生!!」
わたしが思わず立ち上がりながらその人物の名前を呼んだ時、周りのメンバーは目を丸くしてわたしを見た。
「あれ?萩原ちゃん、藍沢と知り合い?」
そう聞かれてハッとした。
わたしが藍沢先生と知り合ったのは、タイムスリップする前のこと。
陣平くんが亡くなってから、医師免許を取得し研修医となったわたし。
東都大附属病院の救命センターでの研修時、藍沢先生はそこの救命センターのシニアドクターでわたしの指導医だった。
藍沢先生は厳しかったけれど、腕は超一流の外科医。
名医ってこの人のことを言うんだ…って思うほどで、わたしの目標であり憧れだった。
けれどそれはわたしが25歳の時の話。
今のわたしは22歳。
当然、藍沢先生とは面識がないことになる。
「…俺、知らないけど。どこかで会った?」
「あ…えと…」
まずい。
初対面の相手にいきなりドンピシャで名前呼ばれたんだもん。
めちゃくちゃ不審そうな顔をして藍沢先生がわたしを見てる。
「えっと、藍沢先生の論文を読んだことがあって。
名前とお顔だけは存じておりました…」
「…そう。」
相変わらずクールな藍沢先生は、それだけ返事をすると席に座った。