第1章 プロローグ
都内某寺
萩原家の墓と書かれた墓石の前に、喪服を着たわたしと姉が立った。
「もう7年か…早いね」
「そうだな。元気でやってっかな」
姉はそう言いながら、空を見上げた。
わたしは真っ直ぐ、兄の墓石を見ながら兄の好きだったタバコを備えながら笑った。
「タバコ吸いながら、相変わらずどっちが早く解体できるか競ってそうだね。」
「陣平と?ありえる」
あははと笑ったあと、姉は少し寂しそうに微笑んだ。
「会いたいな。研二に」
「うん…すごく」
そう言うと、二人揃って言葉を無くした。
ただ、もう一度だけ会いたい。
そんな願いすら、神様は叶えてくれないんだから。
兄は7年前にこの世を去った。
警察の爆発物処理班に配属されていた兄は、爆弾の解体中に命を落としたのだ。
所謂、殉職 と呼ばれる死。
あの日、床が1枚ずつ崩れ落ちるような言いようのない絶望は今でも覚えてる。
そして4年後にさらに上を行く絶望を味わうことになるなんて思っても見なかった。
小さい頃からわたしを溺愛していて、ずっとお兄ちゃんの後ろをついて走り回ってたわたしを、両親よりも可愛がってくれた気がする。
まさか22歳でこの世を去るなんて、夢にも思わなかった。
きっと本人も、今頃天国で驚いてるだろう。
わたしは今、当時の兄の年齢を4つも追い越してる。
なのにどうしてかな。
何年経っても、わたしがお兄ちゃんの年を追い越しても、
お兄ちゃんのほうがいつだって大人びて感じる。
「お兄ちゃん、わたし結婚するかも」
兄の墓に向かって、まるで兄に報告するようにそう呟いたわたしを、姉が目を丸くして見た。
「聞いてないぞ!彼氏いたのか?!」
「…いないよ。
でも、結婚を前提に付き合って欲しいって言われた」
そう言って下を向くわたし。
きっと姉は気付いてる。
わたしが、まだ迷ってること。
姉はわたしが持っていたバケツを取りながら言った。
「これ、片付けておいてやるから、あんた次行きな?」
「え…お姉ちゃんは行かないの?」
「一人の方が、あいつとゆっくり話できるだろ?
…結婚の話は、また今度ゆっくり話聞くから」
姉はそう言いながら優しく笑った。
姉の好意に甘え、わたしは後片付けを任せたあと、タクシーを捕まえると次の目的地に向かった。