第1章 プロローグ
病院のロビーを通り、外に出ようとしたとき
「あれ?萩原さん」
「ああ、新出くん!」
わたしの大学の同期でもある新出くんにばったりと会った。
同じ教授のゼミに所属していた関係で大学時代から親しくしている。
「新出くんどうしたの?まさか診察?」
「いや?教授と会う約束をしているんだ。
論文について意見が欲しいって。」
「そうなの!あ、教授によろしく言っといて!
じゃあわたし、今から用事があるから…
またね!」
「あ、待って」
約束の時間に遅刻しそうになっているのを思い出し、慌ててその場を立ち去ろうとするわたしの腕を、新出くんが掴んだ。
「?」
「あの話、考えてくれた?」
あの話…
先週、新出くんとご飯に行った時に彼から言われた。
結婚を前提に付き合って欲しいと。
ここ数日、悩みに悩んで結論はまだ出ていない。
かと言って、ズルズル先延ばしにしちゃ悪いよね…
そう思い、わたしは自分自身にタイムリミットを課した。
「…明日、夜時間ある?
ちゃんと返事する」
「あぁ。いつものカフェで待ってるよ。
19時で良い?」
「うん。…じゃあ行くね?」
新出くんに手を振り、わたしは大急ぎでタクシーを拾うと自宅に戻った。
乗ってきたタクシーを下で待たせ、あらかじめクリーニングに出しておいた喪服に大急ぎで袖を通すと、停めていたタクシーにもう一度乗り込んだ。
今日はわたしにとって1年で最も嫌いな日
そして、1年で最も大切な日