第1章 プロローグ
萩原家の墓から、タクシーを走らせ20分
また別のお寺に到着した。
寺でバケツを借りて水を汲み、砂利で転ばないようにヒールで歩きながら着いた先は
松田家の墓
と書かれている墓石の前だ。
「陣平くん。…今日ちょっと寒いね」
まるでそこに彼がいるみたいに話しかけるわたしだけど、もちろん返事は返ってこない。
松田陣平
兄の小学生からの友人で、警察学校の同期。
兄が亡くなった4年後の同じ日に同じ爆弾犯に殺された。
わたしはずっと陣平くんが好きだった。
わたしが小学生のとき、初めて出会ってからずっと、ずっと
彼に恋をしていた。
そして今も、少しも忘れることができず、彼のことが好き。
もうこの世にいないのに…
「陣平くんは、わたしが結婚するって言ったらなんて言う?」
相手は東都大学医学部卒
開業医の息子で、顔よし頭良し、性格も良し
ミコトにしては、良い男捕まえたって言うかな。
少し冷たい秋の風が吹いた。
上を見上げると、綺麗な秋晴れが広がっていて、わたしは天の邪鬼にもその空を睨んだ。
神様は、意地悪だ。
こんなに綺麗な空を描くことができるのに、どうして?
お兄ちゃんも、陣平くんも、この世から攫っていってしまったの?
涙がわたしの目から一筋流れた。
毎年毎年、この日は神様を呪う日だ。
このあとわたしに、神様が眩いほどの奇跡をくれるなんて、思いもしなかったから。