第32章 寝言の理由 ☆
そう思った瞬間咄嗟にベッドを降りて、わたしは逃げるように寝室からリビングへとつながる扉を開いた。
「お?どうした?まだ起きてたのか」
リビングではシャワーを浴びた後の陣平くんが髪を拭きながらソファーをベッドの形に変えているところだった。
「陣平くん…」
わたしが複雑そうな顔をしているのを、何も知らない陣平くんは不思議そうに見た。
たまらず、わたしは陣平くんの方へ駆けていき、そのまま彼にぎゅっと抱きついた。
「?どうした?」
「…陣平くん、わたしのこと好き?」
「はあ?何だよ急に」
「誰にも取られたくない…」
そう言ってぎゅっと陣平くんに抱き着く力を強めると、彼はふぅ…とため息を吐きながらわたしの頭をぽんぽんと撫でた。
「よくわかんねえけど、俺はお前が好き」
「ほんと?」
「嘘ついてどうすんだ」
そう言った後、陣平くんはわたしの頬に手を添えると、優しく唇を重ねた。
「んっ…」
「…好きだ」
唇を離した後、おでこをコツ…とくっつけながら目を見てそう言ってくれた陣平くん。
そうだよね…大丈夫だよね…
陣平くんが、わたしを裏切るはずないよね?
「うん…わたしも、陣平くんが大好き」
「知ってる。
…ほら、満足したなら、早くベッド戻って寝ろよ。
明日、朝早ぇんだろ?」
頭を撫でながらまた抱きしめてくれる陣平くん。
こんなの、離れ難くなるよ…
今日、陣平くんと一緒に眠るのをベッドの中でずっと楽しみにして待ってたんだよ?
そんな思いから、わたしは陣平くんの身体に再びぎゅーっと抱き着いた。
「ミコト?」
「…わたしも、陣平くんとここで寝てもいい?」
「いいけど…ソファー、シングルベッド並みに狭いぜ?
ベッドで佐藤と寝た方が…」
「陣平くんと寝たいの。ソファーで一緒に寝る!」
こんな頑なにわがままを言うのは久しぶりかも知れない。
だけど、さすがにあのベッドであの人と一緒に寝られるはずもなく、ただ安心したかった。