第32章 寝言の理由 ☆
人はパニックに陥ると、思考回路が停止するらしい。
言われるがまま陣平くんからその女の人を預かり、ベッドルームまで連れて行くわたし。
この人、前にIKEAで会った…確か、佐藤さんという陣平くんの教育係だ。
そして、この状況を飲み込む暇もないまんま、この人の服を脱がせ、わたしの部屋着を着させてあげる。
わたし、何やってんの…
何で陣平くんがお持ち帰りして来た女の人のお世話なんか…
そう思ったりしたけれど、陣平くんのお世話になってる人なら仕方ないか。
そりゃ、女の刑事もいるよね。
教育係の人と、仕事終わりに飲むのなんてよくある話だし、何も特別なことじゃない。
そう言い聞かせながら、その女性をベッドに寝かせた。
ショートカットが似合う、美人なひと。
初めて会った時も思ったけど、目を閉じて眠る顔を見ると、更に美人だなと思った。
こんなに綺麗な人と、いつも一緒に仕事してるんだ…
もしこの人が陣平くんを好きになったら、わたしなんて叶わないだろうな。
年齢もわたしより陣平くんに近いだろうし。
同じ刑事仲間ってことは、わたしにはわからない仕事の悩みもこの人なら理解できるんだろう。
…まあ、無いよね!うん、無い無い!
気を取り直して寝よう。
嫌なことを考えてしまいそうになる思考を振り切り、この美人な女の人の隣に潜り込むわたし。
その時、寝返りを打ったその人がぽつりとつぶやいた。
「ん…松田くん…」
「え…」
思わず目を見開いた。
今、松田くんって言った…?
寝言で…?
ハッと身体を起こして、眠る佐藤さんを覗き込むと、ふにゃふにゃと寝言を言いながら、次にこう呟いた。
「松田くん…好き」
好き…?って言った?今…
嘘でしょ…?
そのとき、以前に陣平くんが言った言葉を思い出した。
わたしは陣平くん以外、興味ないもん。
そう言ったわたしに、陣平くんが返した言葉。
「お前が興味なくても、相手があるだろ。」
…このひと、陣平くんのこと…好きなの?