第32章 寝言の理由 ☆
佐藤はムッと顔を顰めた後、懲りずにまたビールを流し込む。
「そりゃ、私だって。
このまま刑事をやってていいのか?とは思うわよ?
こんな仕事、理解してくれる男の人なんていないだろうし、結婚だって出来ない。
…でも、今の仕事が楽しいんだもの。」
「別に、結婚しようと思えばできるだろ。
刑事同士なら理解も多少あるんじゃねぇの?
あんた、人気みてえだし」
「刑事同士か…」
ぽつりと呟いて俺を見る佐藤。
俺はジロッと睨み返した。
「んだよ。俺の顔になんかついてんのか?」
「?!う、ううん?
あーあ。今の私のこの生き方、死んだ父はなんて言うかなー。
自分と同じ刑事になって喜んでるかな。
それとも、早く女としての幸せを掴めと怒ってるかな」
そう言った後、亡き父を思い出しているかのような、寂しげな表示を見せた佐藤。
その顔は、見覚えがある。
ミコトが萩原の話をするときに見せる表情とそっくりだ。
そしてきっと、俺が萩を思い出す時も同じ表情をしてるだろう。
「死んだ人間は答えちゃくれねぇよ」
「…知ってるわよ。
けれど、たまに思うの。
今もし父に会えたら、何話そうって。
何を話して、どんな時間を過ごそうって。
…バカよね」
「バカじゃねぇよ。
…よく分かる。」
俺だってそうだ。
何かあるとすぐに萩原に言いたくなる。
もしまたもう一度会えるなら、俺は萩原にちゃんと言いたい。
お前ほど、俺にとって唯一無二で大事なダチはいねえと。
そんなこと、生きてる間に伝えるチャンスはいくらでもあったのに。
ちゃんと言えばよかったと後悔するのは、そいつがもうこの世から消えた後だった。
俺が萩原のことを思い出してると、その表情でそれを察知したのか、佐藤が追加でビールを頼む。
「すみませーん!生2つと焼き鳥盛り合わせ2つ追加で!」
「まだ飲むのかよ…」
「立ち止まってなんかいられないわよね。
今日は飲んで、飲みまくって日頃のストレス全部発散しましょう!!」
俺を元気付けようとしてるのか?
それにしてももっとやり方あるだろ。
と、心の中でツッコミながらも、優しい俺は佐藤のストレス発散に付き合って、大量の酒を身体に入れた。