第31章 2人の部屋で初めての夜 ☆
松田side
ミコトと一緒に暮らし始めたものの、すぐに俺の仕事が落ち着くわけでもなく、相変わらず忙しい日々を送っていた。
俺が帰宅する時にはもうミコトはベッドの中で眠っている日が多く、俺は帰宅するとすぐにベッドルームへ向かい、ミコトの寝顔を見るのがルーティーンになった。
今日は珍しく夕方に仕事を終えることができた俺は、即座にミコトにメールを打つ。
「早く帰れそうだ。
腹減った」
ぶっきらぼうにそれだけ送ると、ミコトは嬉しいのを全面に出した返信をしてくれる。
「ほんと?!嬉しい!
陣平くんの好きなものたくさん作るね!」
文面を見ただけで今日の疲れはどこかへ吹き飛んだ。
俺は足早に警視庁を後にすると、ミコトと暮らす家へ向かって帰路に着く。
最寄駅の駅ビルの中を通っていると、ある雑貨屋に黒いテディベアが店頭に置かれているのが目に入った。
テディベアのくせに、少し目つきが悪くて、これを見た時にミコトが「陣平くんに似てるー!」なんて言いそうだと思った俺は、思わずそのテディベアをレジに持って行った。
スーツにサングラス、とてもテディベアを買うような風貌には見えない俺を見て、店員が少しチラチラと俺を見ながらも、プレゼント用の袋にそいつを入れてくれた。
「帰れねえ日は、こいつで我慢してもらうしかねえな」
そうぽつりとこぼした俺は、袋に入ったテディベアを抱き抱えてミコトが待つ家へと急いだ。