第31章 2人の部屋で初めての夜 ☆
ミコトは今にも泣きそうな顔をしながら俺を睨んでいる。
…なんだよその可愛い顔…
あっさりと自分の彼女の膨れっ面に胸を撃ち抜かれながらも、俺は平静を装ってミコトの髪を撫でた。
「嫌いなわけないだろ?
なんだよ急に」
「…じゃあどうして、ぎゅーもしてくれないの?」
ミコトは口を尖らせたまま引き続き俺を可愛い顔して睨む。
「…俺にも色々あんだよ」
「今日はラブラブ同棲生活の幕開けなのに」
「ラブラブ…」
いや、間違っていないんだが、そうあからさまな単語を使われると何とも気恥ずかしくて仕方ねえな。
「陣平くんはわたしとラブラブじゃないんだ」
「…頭良いくせに、ちゃんとした日本語使えよ」
「陣平くんはわたしのこと好きじゃないんだ!」
そう言うとミコトは、もういい!と言いながら布団を被り、そっぽを向いてしまった。
マジか…と、久しぶりにやってきたミコトのワガママ末っ子気質に戸惑いながらも、俺はミコトの肩を掴んでユサユサ揺さぶりながら話しかける。
「おい、ミコト…何でそうなるんだよ…」
「…だってわたしは、陣平くんと24時間365日ずっとくっついていたんだもん。
…なのに、ぎゅーもしてくれないなんて、寂しすぎる」
「…抱きしめたら、止まらなくなるだろ…」
俺が、観念したように本音をこぼすと、ピクッと身体を揺らしたミコト。
俺は続けて言った。
「お前、明日は1限からって言ってたし、このところしばらく引っ越し準備で忙しくしてただろ?
もし今日お前を抱きしめたら、抱きしめるだけじゃ絶対終わるわけねえし、その結果授業サボるなんてことになったらお前の親に申し訳ねえよ…」
包み隠さず全部をぶちまけた俺に、ミコトはきょとんと目を丸くしてこっちを向いた。