第4章 俺と萩原
泣いてる2人の横を通り過ぎ、俺は何も言わずに萩原の前に立った。
横たわる萩原は、とても萩原に思えない。
思えないのに、俺はその身体に絞り出すような声で言った。
「何やってんだよ…萩原ァ…」
お前の大事な姉ちゃんと、宝物だと言った妹が泣いてるぞ…
そばにきて、早く抱きしめてやれよ…
俺の目から涙が溢れたのは、いつぶりだろうか。
傷付いた萩原の身体がだんだんぼやけて、喉の奥が詰まる。
なあ、萩原。
俺たちはいつも一緒だっただろ?
子供の頃も、学生時代も、職場だって同じだ。
兄弟同然に育ったじゃねぇか。
俺は萩のことを一番わかっていて、俺のことを一番わかっているのは萩だったはずだろ?
なのに、ひとりで行くのかよ。
俺を置いて、千速を置いて、ミコトを置いて
ひとりで行くのかよ…馬鹿野郎…
俺の最愛の親友だった萩原は、11月7日
この世から消えた。
あの余裕ぶった笑顔も二度と見れねぇ
軽口を叩く声も二度と聞けねぇ。
もう2人で何かをバラして遊ぶことも、いつもの居酒屋で終電まで飲むこともできねぇ。
身体だけ残して、他は跡形もなく消えた。