第30章 ライバルとの初対面
家具家電や段ボールをいくつかトラックに乗せてもらい、引越し業者を見送ったあと、わたしたちは自分達で運ぶものを鞄や紙袋、トランクに詰めて徒歩で新居へと向かった。
陣平くんのアパートの解約は月末。
それまでは、何度か新居と前の家を往復して少しずつ私物を移していくつもりだ。
今日はとりあえず、生活に最低限必要なものを移動させた後、陣平くんがいるうちに家具を揃えて組み立てないといけない。
陣平くんのお休みは今日だけだから、細かい片付けは明日以降に少しずつ。
大変だけど、夢にまで見た陣平くんとの同棲。
多少の忙しさなんて、全然苦じゃない。
そんなふうに思いながら、荷物を持って歩いているとき、陣平くんが不意に尋ねた。
「重くねぇ?それ」
「ん。大丈夫!
陣平くんの方がたくさん持ってるでしょ?
どれかわたし持つよ?」
わたしが持ってるのはリュックに詰めた自分の服やメイク道具、保冷バッグに詰めた冷蔵庫の中身、そしてタオル類だ。
方や、陣平くんが持ってるのは、シャンプーや洗濯洗剤、陣平くんの服などの私物に、わたしの大学で使う教科書類。
明らかに陣平くんの荷物の方がわたしよりも何倍も多いし、重い。
せめて自分の教科書は自分で…と、紙袋に手を伸ばしたけど、陣平くんにヒョイっとかわされた。
「バァーカ。俺がそんなにひ弱に見えるか?
お前こそ、そんな細い腕でそんなに持って大丈夫かよ」
「ばーか!医者はね、力持ちなんだよ?
患者さんをストレッチャーから処置台に乗せる時なんて結構力使うんだから!」
「…まだ医者じゃねえだろ」
「じ!実習でやったの!」
わたしのこの不自然発言に、陣平くんはもうツッコむこともせず、ふうん。と適当にあしらう。
そんなやりとりをしながら歩いてると、重い荷物を持っているのも忘れちゃう。
陣平くんといると、どんな苦よりも楽しいが勝つの。
気付くと新居の前に到着していた。