第29章 この部屋で過ごす最後の夜 ☆
松田side
ゴム越しにすべて吐き出した後、ピクリとも動かなくなったミコトの名前を呼んだ。
「ミコト…?」
見ると、疲れたのか俺の腕の中ですやすやと寝息を立てていた。
思えば今日、ミコトは朝から兄貴の墓参り、終わってからこの家で1人で荷物の梱包。
そして途中わざわざ家に帰って俺のために料理を作って重箱に詰め、またこの家に戻ってきて俺にめちゃくちゃに抱かれた。
そりゃ疲れて眠るのも無理ねえな…
「無理させちまったな。」
そう言いながらミコトの髪を撫で、額にキスをしたときミコトの目がぱち…と開いた。
「悪い…起こしたか?」
「ん…寝ちゃってた」
まだ虚ろな目を擦りながら俺を見てそう言うミコトがたまらなく可愛い。
俺はミコトの頬を手のひらで撫でると、いつになく優しい声で言う。
「いいから寝てろ。
無理させて悪かったな」
「無理なんてしてないよ?
わたし、陣平くんのために色々するのがこの上なく幸せ」
「ミコト…」
「これから一緒に住むんだし、そんなふうに思うの禁止ね?」
ふふっと笑ってそう言うミコト。
あぁ、俺はこの先ずっとこの笑顔を守るために生きていくんだろう。
萩原が残していったこの宝物をこの手で。