第29章 この部屋で過ごす最後の夜 ☆
松田side
自宅の玄関ドアを開け、中に入ると狭い部屋はほとんど段ボールで埋め尽くされていた。
しまった。
今日、調理器具も使えねえってことは飯は無いのか…
コンビニで何か買ってくればよかった…
そう思いながら狭い廊下を通って、ミコトがいるワンルームに脚を運ぶと、ベッドの上で身体を丸めて眠るミコトを見つけた。
待ちくたびれて、眠ってしまったらしい。
「猫かよ。こいつ」
むにゃむにゃと寝言を言いながら、可愛い顔して眠るミコトは、まるで猫みたいだ。
起こしちゃ悪いな。
そう思いながらベッドに腰をかけ、ミコトの頭をゆっくりと撫でた。
いつもはわしゃわしゃと撫でるのに、今は懇切丁寧に。
その瞬間、ミコトはぱちっと目を覚ました。
そしてガバッと身体を起こしながら俺に抱きついてくる。
「陣平くん!お帰り!!」
「悪い、起こしたな」
「ううん?起こしてくれてありがとう!
寝るつもりなかったのに、いつのまにか」
そう言ってあははと笑いながらベッドから身体を出したミコトは、自分のカバンのすぐ横に置いてあったバッグを開けて言う。
「陣平くん、お腹空いてない?」
「空いてる。コンビニで何か買ってくればよかったって思ってたとこ」
「そ?じゃあこれ食べて?」
そう言って取り出したのは、少し小さめの重箱。
かぱ…と蓋を開けて中身を見せながら、ミコトは満足気に中身の説明を始めた。