第29章 この部屋で過ごす最後の夜 ☆
陣平くんのアパートで荷造りを開始して数時間。
ようやくほとんどの荷物をダンボールやトランクに詰め終えた。
二人の分の荷物の梱包を一人でやったのだから、終わる頃の達成感が半端じゃなかった。
「よし!そろそろ陣平くんのためにご飯作り始めよう!」
そう思ってキッチンに立ったわたしは、今更ハッと頭を抱えた。
引越しのせいで、陣平くんの部屋の小物はもうほとんど段ボールの中だ。
つまり、調理器具は全部片付けてしまった後だった。
これじゃ料理ができない!と思ったわたしは、一度実家に帰り、おかずを何品かとおにぎりを作って重箱に詰めると、また陣平くんのアパートに戻ってきた。
時刻は夜22時。
まだ陣平くんは帰ってきておらず、ほっと胸をなでおろす。
「こんな時間まで仕事だときっと腹ペコだよね。
実家、ご飯炊いておいてくれて助かった…!」
日付が変わるまでに帰ると言っていた陣平くんを待ちながら、わたしはシャワーを浴びて、持ってきた部屋着に着替えてベッドに寝転がった。
思えばいつも陣平くんのパーカーを借りていたから、自分の部屋着をこの部屋で着るのは初めてだ。
…今気付いたけど、一緒に住み出したらもう陣平くんのパーカー貸してくれないのかな?
あれを着ると、全身陣平くんの匂いに包まれて、さらに彼の身体の大きさを感じることができて好きなのにな。
そんなこと思いながら携帯をいじっていると、陣平くんからメールが来た。
「今から帰るわ」
開いた瞬間返信ボタンを押し、高速で返事を送信した。
「お疲れ様!待ってる!」
たぶん3秒もかかってないと思う。
もうすぐ陣平くんが帰ってくる…
ご飯作ったの、喜んでくれるかな…
引っ越しの作業、もう半分終わらせたんだなって褒めてくれる…?
陣平くんのことで頭がいっぱいになりながら、わたしはゆっくりと目を閉じた。
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