第29章 この部屋で過ごす最後の夜 ☆
「陣平くん!」
「悪いな、遅れて。俺の教育係がうるさくってよー…」
そう言いながら、陣平くんは同期3人の輪の中に入った。
「松田の教育係とは、心中お察しするよ」
「なんだ?零。
こんな優等生な警察官いねぇだろ?」
そんな冗談を言い合って、みんなでお墓の前で手を合わせた。
お兄ちゃん。
お兄ちゃんの大事な仲間は、こんなにも温かくてそれぞれがかっこよくて、輝いてたんだね。
この4人と一緒にいるお兄ちゃん、わたし実は見たことないんだ。
どんな風に接してたの?
警察学校で、この人たちとどんな思い出が出来た?
聞きたいことはたくさんあって、お兄ちゃんが亡くなってから1年経っても2年経っても、聞きたいことは増え続けていくばかりだ。
お兄ちゃんにもう一度だけ会いたい。
そんな願いを、神様は叶えてくれた。
なのに、あの時間に、もっとお兄ちゃんとの時間を過ごせばよかったと、結局また後悔が残った。
大好きだと言えただけで、他は何も伝えられていない。
だから、わたしはお兄ちゃんが俺の妹、すげぇだろ?と天国で自慢できるような生き方をする。
そう決めたの。
ゆっくりと目を開けると、陣平くんをはじめとする4人は、じっとわたしが手を合わせるところを見ていたみたい。
「相変わらず、萩にワガママたくさん言ってるんだろ?」
「ワガママなんて言ってないもん!」
「まあ、萩原なら喜んで聞いていると思うよ」
そう言ってわたしと陣平くんの些細な言い合いを、降谷さんが笑顔で止めた。
「松田は、萩原に何を話したんだ?」
伊達さんのその言葉に、陣平くんは平然と言ってのけた。
「俺?ミコトと一緒に住むことになったって言った」
「え?!!?」
「ど、同棲ってことか?!」
今日一番大きな声で驚く諸伏さん。
そして、まさかあの松田が?!とでも言いたげな伊達さん。
揃って目を丸くして陣平くんを見た。