第28章 はじまりの一歩
佐藤side
「あら?非番なのにスーツなの?」
その言葉の中には、松田くんの私服が見れなくて少し残念。
という自分の気持ちが含まれてることに、私はもう気付いていたのかも知れない。
いつもと変わらないスーツ姿で現れた彼。
なんならいつもよりも少しだけ綺麗に着こなしている気さえした。
その理由はすぐに彼が教えてくれる。
「あぁ。ビシッとキメて、愛しいカノジョとデート中だったのに、誰かさんが呼び出しすっから」
愛しいカノジョ
そう言われて、以前張り込み中に松田くんが会っていた女の子を思い出した。
可愛らしい顔した小柄な女の子。
暗いところで遠目から見ただけだったから、ハッキリとは見えなかったけど、私よりもずっと愛嬌がある子だと思う。
「悪かったわね。イチャイチャラブラブの邪魔して」
そんな悪態をつく私は可愛くない女代表だ。
思えば今まで、可愛さなんて意識したことなかったな。
昔から男勝りで、何でもハッキリ言うタイプで…
だけど、松田くんは女の子らしい子がタイプなんだ。
「しゃーねぇから許してやるよ」
私のこのそっけない態度を怒りもせず、松田くんは鼻歌を歌いながら窓の外を見た。
ご機嫌ね。
さっきまで、愛しいカノジョとやらに会っていたわけだから、いつものあの不機嫌粗暴な松田くんはいない。
私といるときはいつも気だるそうにしているくせに。
そう思うと、何故か無性にイライラしてきた。
「そんなに好きなんだ。彼女のこと」
「はあ?当たり前だろ?」
何言ってんだ、あんた。という顔をして私を見る松田くん。