第28章 はじまりの一歩
表紙を開いてすぐ、目次の前にこう書かれてある。
「ひとは誰しも過去に戻りたいと願う瞬間が必ずある。
その瞬間は往々にして、何かをひどく後悔した時と等しい。
この本は、人類が未だ経験したことのない、タイムトラベルという時間旅行について考察し記したものである」
そして目次を飛ばし、本章のページをめくろうとした瞬間
「あれ?ミコトじゃん!何やってるの?」
「アユ!」
ふと見ると、友人のアユがわたしを見つけて目を丸くしている。
「アユこそ、どうして?」
「今日はテスト勉強しに来たの。
家じゃ集中出来なくて。
…タイムトラベルについての考察…
ミコト、こう言う非現実的なの読むの?」
そう言ってアユは、わたしが持っていたその本を物珍しそうに手に取った。
「あっ…ちょ…」
「なになに?
多くの人が望むタイムトラベルの目的は、その後悔を正すため。
つまり、たった一つの後悔しか改善出来ないのではないか。
って書いてあるね。
へぇー。ミコトも過去に戻りたいとか思うの?今幸せ絶頂なのに」
アユは本の一部を読み上げて、目を丸くしてこちらを見た。
たった一つの後悔しか改善できない
さっきアユが読み上げたこのフレーズが、妙に頭に残った。
つまり、わたしができるのは陣平くんの死の阻止だけ。
だからお兄ちゃんは助からなかった…?
「ミコト?おーい!ミコト?」
「えっ!なに?」
考え込んでいると、目の前でアユに手をヒラヒラと仰がれ、ハッとして彼女を見た。
「何って、なんでこの本読んでたの?って聞いてるの」
「あぁ…
別に?ただタイトルに興味をそそられただけ。
戻してくるね?」
そう言ってアユから本を取り、さっきあった本棚の元通りの位置に戻した。
本当はもっと読んでみたい気持ちもあったけど、怖かった。
この先の未来が書かれているかもしれないと思うと、読みたくないと思ったんだ。
陣平くんとの未来は、わたしが必ず切り開く。
そんな決心が鈍りそうだったから。