第1章 プロローグ
ー11月7日
「経過は良好ですね。
じゃあ、次は2週間後、また診ましょう」
「萩原先生、ありがとうございます」
「お大事に」
先生と呼ばれるようになってもう2年が経った。
萩原ミコト 26歳
東都大学附属病院 常勤勤務
外科医
ようやく研修期間を終え、卵からひよこになったところだ。
毎日診察、オペ、勉強に追われて忙しい日々を送ってる。
「萩原先生。そろそろお時間では?」
「うわっ!もうこんな時間!」
予定していた診察が終わり、看護師の一言で時計を見てわたしはガタッと立ち上がった。
その様子を見て、研修医時代からお世話になっている先輩女医が笑いながらわたしを見る。
「時間管理も、医者の大事な仕事だよー?
急ぎすぎて事故らないようにね」
「はあい!
あ、すみません…まだひよっこなのに午後お休みいただいちゃって…」
「いいのよ。
お兄さんの命日のお墓参りでしょ?
こういう時に有休使わないで、いつ使うのよ!」
そう言って笑うと、先輩はわたしの崩れたコートの襟を直しながら続ける。
「命日ぐらい、お兄さんとじっくり心を通わせてね。
…医者は、どれだけ努力しても亡くなった人を生き返らせることは出来ないんだから」
「…はい。そうですね…
じゃあ、お先に失礼します」
口角を上げてそう言い、バッグを肩にかけるとスタッフルームを後にした。