第28章 はじまりの一歩
はぁー…とため息を吐いて電話を切ると、隣にいたミコトが俺の顔を覗き込んできた。
「仕事?」
「あぁ。やっぱり招集だった。
悪いけど、いかねぇと」
「そっか。仕方ないね。
頑張って!松田刑事?」
ポンっと肩に手を置いて、へへっと笑いながらそう言うミコト。
来月からは、こうして毎日ミコトの笑顔を見てから仕事に行けるんだと思うと、身体が軽くなった気分だ。
「来月、休み取るから一緒に引っ越し作業しようぜ」
「うん!
家具とか家電とか、足りない物の買い物もしたいな」
「んじゃあ、そのために俺は必死で働いてくるわ。」
これまで、家族のために頑張るってどんな気分なんだろうなと思っていた。
親父の一件があって、所詮家族だろうか恋人だろうが、所詮人は独りだと思ってた。
自分が一番大事だと信じて疑わなかったが、最近ようやく分かった気がする。
大事な人の笑顔を守るために、人は頑張れるんだということを。
「じゃあ、わたしも行くね?
せっかく外に出て来たんだし、今から大学の図書館で勉強する。」
「そっか。気をつけてな。
夜、電話する」
そう言って手を振り、ミコトが駅の改札を通ろうとした時、思わずミコトの手をグッと引いた。
「?なに?」
「キスぐらいさせろ」
そう言って、周りに大勢人がいるにも関わらず、俺はミコトの唇を奪った。
甘い綿菓子みたいな味がした。