第28章 はじまりの一歩
あと1ヶ月ぐらい我慢できる。ガキじゃねぇんだから。
そう自分に言い聞かせミコトを見ると、ミコトはうーんと言いながら顔を顰めた。
「来月かあ…
ということは、また1ヶ月陣平くんに会えないんだね」
「1ヶ月なんかすぐだって。
…毎日メールも電話もするから」
「ほんと?」
そう言ってミコトの髪を撫でると、ミコトは俺を上目遣いで見つめてくる。
さっきまで喧嘩していたと思いきや、突然イチャイチャを繰り広げる俺たちに、不動産屋はまた更に呆れた顔して俺たちを見た。
「どうなさいますか?」
「んじゃあ、ここに決めます」
俺がそう返事をして、ホッとした様子の不動産屋は、続けて契約のための紙を出してきた。
俺の不器用な字と、ミコトの賢そうな字が並んだ。
思えば何かの書類に、それぞれが同時に名前を書くのは初めてかもしれない。
そう思うと、もともといびつな俺の字がさらにいびつになった。
たったこれだけで緊張しているんだから、婚姻届を書くときはどうなっちまうんだろうな。
きっと、書き損じて何枚もやり直しする未来が見えた。
そう思っていると、ミコトは俺の字を見てあははと笑った。
「陣平くん、字へたくそだ!」
「うるせぇよ」
くしゃくしゃと頭を撫で、相変わらずイチャイチャを繰り広げる俺たち。
相変わらず呆れた顔して眺める不動産屋に書類を提出して、2人で住む家が決まった。
「では、来月の入居時に鍵をお渡しします。」
「わかりました」
ようやくこの面倒な客が帰るとせいせいしている不動産屋に見送られながら、俺たちは帰路に着くために駅に向かって並んで歩き出した。