第28章 はじまりの一歩
隣ではミコトがあははとお気楽に笑いながら言う。
「いいのー?!やったー!」
「どうせなら、大学から近い家の方が都合良いものねぇ。」
「この調子で千速も早く良い人を見つけてくれると良いんだが…」
1人ポカンとしている俺を見て、千速がニヤニヤと笑っている。
呑気すぎるミコトの両親に、思わず俺が慌ててツッコミを入れた。
「ちょ、ちょっと待ってください!
そ、そんなにあっさり!?」
俺が昨日眠れないぐらい緊張していたのは何のためだったんだ…
まさかこんなにあっさりスムーズにことが進むとは思っていなかった。
すると、ミコトの父はミコトを優しい目で見ながら言った。
「ミコトには、自分の好きなように生きて欲しい。
…研二のようにいつ、何が起こるかわからないから。」
そう言って今度は仏間に目を配る父の隣で、母が俺を見ながら言う。
「ミコトのこと、よろしくね。松田くん」
「もちろんです」
そう言ってもう一度頭を下げた。
「陣平、やるじゃねぇか。見直したよ。
人の物壊すクソガキだと思ってたけど、大人になったな」
そう言って千速は俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。
面接よりも遥かに真面目な顔して、俺らしく無いほど丁寧な言葉遣いで、今年一番の大イベントがあっけなく終わった。
せっかくだから研二にも知らせてやって?と母に仏間に通され、俺とミコトは並んで線香を手向けた。
「お兄ちゃん、きっと喜んでるね」
「だと良いんだけどな」
そう言いながら、萩原の写真を眺めた。
今ここに萩原がいたら。
そんなどうしようもないことを考えてしまうのはもう何度目だろうか。
直接、伝えたかったよ。
お前が誰より可愛がってた妹を幸せにするのはこの俺だと。
結婚するわけじゃねぇのに、そんなことを思うあたり、生き急いでいるのかもしれない。
きっとお前は言うだろうな。
陣平ちゃん。もっと肩の力を抜いて気楽にのんびり行こうぜ?って。
ミコトは俺の隣で、目を閉じで手を合わせた。
きっと俺と同じことを考えているんだと、そう思った。