第26章 幸せな提案
松田side
それから数日後、ようやく配属されてからずっと追っていた事件の犯人を検挙した。
取り調べの後送検の処理も終わり、長い戦いが終わった気分だ。
捜査一課は爆処とは真逆だ。
爆処は、爆弾が爆発する数分が勝負。
それに対して捜査一課は何日も、何ヶ月も、下手すれば何年もかけてひとつの事件を追う。
俺は、ただ萩原の事件だけ追っていたいのに、そうは行かねえみたいだ。
やって行ける気がしねぇ…
はあ…とため息をつきながら、俺は屋上にタバコを吸いに出た。
一課に来てから、タバコの本数は2倍に増えた俺。
そのうち、ミコトに臭いって言われそうだ。
「陣平くん、くさーい!」
ミコトに言われるところを想像するとゾッとして、俺は思わず半分しか吸っていないタバコを灰皿で消した。
その時、屋上の扉が開く。
「ここにいたの」
「あぁ、あんたか。」
立っていたのは佐藤美和子。
俺を探していたのか、やっと見つけた。という顔をして俺の隣に来た。
「これ、初検挙祝い」
そう言って俺に缶コーヒーを手渡してくる。
「どーも。」
それを受け取り、プルタブを片手で開けながら佐藤を見ると、疲れた顔ひとつ見せず、平然とコーヒーを飲んでいる。
この女、このブラック捜査一課でよくやってるよ…
「あんた、タフだねぇ」
「え?」
「俺はすでにクタクタ。
これからずっと、この鬼のように忙しい日が続くのかって思うと吐き気するぜ…」
「そうね。一課はあり得ないほど忙しいわね。
ベッドで眠れない日もたくさんあるし、朝から夜までずっと足を使って捜査。
…でもね。被害者のことを考えると、立ち止まってなんかいられないの。」