第26章 幸せな提案
目を逸らすように、サイドウインドウとは逆側に身体を向け、邪念を振り払って寝てしまおうと目を瞑る。
けれど全然眠れない。
仮眠を取れと言ったくせに、心がざわついて心臓が痒い。
今まで、張り込み中どんな場所でもどんな時間でも一瞬で眠れたのに。
自分の変化に戸惑いながらも必死で寝ようと戦っていると、助手席のドアが開いた。
「あれ?寝てねぇの?」
松田くんが、あっけらかんとして戻ってきた。
まるで、何事もなかったかのように。
けれどほんの少しだけ、ご機嫌に。
「…職務中に、女の子に会うなんて言語道断よ?
仮眠とれって言ったのに」
「ははっ。バレたか?
まあそう怒んなよ。
仮眠取るよりも、あいつといる方が疲れが取れるんだ。
あんたにもいるだろ?そういう人間」
「…いないわよ。別に。
睡眠が一番よ!」
そう言いながら、私はまたシートに身体を預けた。
どうしてこんなにイライラしてるんだろう。
別に、松田くんが何をしようと何を言おうと私には関係ないのに。
そう思いながら、私はまた窓の外を見た。
早く、この夜が明ければいい。
そしたらこのざわついた気持ちもすぐになくなるから。