第26章 幸せな提案
佐藤side
全く。
仮眠を取れと言ったのに、私の言うこと一つも聞かないんだから。
ふぅっとため息をついてシートを倒し、とりあえず自分は仮眠を取ろうと目を閉じた。
本当、傍若無人を絵に描いたような男。
口は悪いし態度も悪い。
だけど1ヶ月一緒にいて、優しいなと思ったことはある。
ある事件で確保しようとした犯人が暴れた時、私が身を乗り出したのを静止して松田くんが犯人の身柄を確保した。
私が父の手錠をずっとお守り代わりに持っていると話した時には、忘れることはないと笑ってくれた。
私の方が刑事としては先輩なのに、たまに女扱いしたりして。
よくわからないやつ。
そう思いながらも、フッとアイツの顔を思い出して寝返りを打った時、サイドウィンドウから公園の中に人影を見つけた。
こんな時間にカップル?
まったく…家かホテルに行きなさいよ。
なんて言いながらそのカップルを凝視する。
「…松田くん?」
紛れもなく、さっきまで私と一緒にいた松田陣平。
隣には可愛い顔した小柄な女の子が笑ってる。
その女の子の肩には松田くんの腕が回されていて、そう言う話に疎い私でもすぐにわかった。
彼女、いたんだ。
なんだ…
職務中に彼女に会いに行くなんて、型破りにも程がある。
再教育しなきゃ。
なんて、言いながら心のどこかがざわついてる。
変なの。
こんな感覚、初めてだ。