第26章 幸せな提案
時刻は深夜2時
優等生のわたしは、この時間に家を抜け出すなんて初めてだった。
「じゃあ、非番の日わかったら連絡するわ」
「うん。待ってる」
もうタイムリミットなのに、わたしも陣平くんもお互いの手を放そうとしない。
「…陣平くん、行かなくて良いの?」
「いや。行くよ。
…行くけど。」
陣平くんも、わたしと同じで離れたくないと思ってくれてるのかな?
そう思うと愛しくて、顔が緩んでしまう。
「お前が先に手放せよ」
「えー。やだ。
陣平くんが放して」
「お前が先」
「やだ」
そんな無駄な言い合いをしていると、陣平が片眉を下げて笑う。
「キリねぇよこれじゃ。」
そう言って陣平くんから手を放した。
不意に放された手。
夏なのにおかしい。
陣平くんの手が離れた瞬間、肌寒く感じる。
「じゃあな。また連絡するわ。」
「うん。陣平くんがあの角曲がるまで見てる」
「ダメだ。早く家に入れ。
お前が家に入らないと俺は行かない」
そう言われ、仕事中の陣平くんをこれ以上拘束しておくことはできず、わたしは渋々家のドアに手をかけた。
「じゃあまたね?」
そう言って家に入ろうとした瞬間、陣平くんがわたしの手を手前に引いた。