第26章 幸せな提案
しばらく抱きしめあった後、ここが萩原家の真ん前だと言うことを忘れていたことに気づいて、俺たちはハッと身体を離した。
「悪いな。なかなか会えなくて。
…家の真ん前で色々すんのもアレだし、近くの公園行こうぜ。
1時間は一緒にいれるから」
「うん!行く!
手、繋ぎたい。だめ?」
「いや?ほら。」
そう言って差し出すと、ミコトは俺の手を嬉しそうに握った。
「あったかいね。陣平くんの手」
「相変わらずお前の手は冷てぇな」
そう言い合いながら、笑い合う。
1ヶ月離れていた分、猛スピードでまた二人の距離が近づいて行くような気がした。
公園に到着すると、俺が異動することが決まったことを伝えたあのベンチに座った。
「陣平くん何で今日会いに来てくれたの?」
「ここの近くで張り込みしてたんだ。
仮眠取ることになったから、バディの刑事に言ってちょっと出て来た。」
そう言いながらミコトの髪を撫でてやると、ミコトは医者の卵らしく眉をハの字にしながら顔を覗き込んでくる。
「仮眠取らなくて大丈夫なの?
ちゃんと、ご飯食べてる?」
「大丈夫だよ」
「無理してない?」
「してない。」
そう言い切って、ミコトの身体を力一杯抱きしめた。
ミコトの匂いを思い切り感じながら、俺は耳元で言う。
「お前とこうしてるのが、仮眠取るより飯食うより、何より癒される」
「陣平くん…」
泣きそうな声で俺の身体を抱きしめ返したミコト。
俺の背中に回されたミコトの震える手が、我慢させていたんだなと実感させる。
「寂しかっただろ?」
「…平気だと思ってたのに、平気じゃ無かったみたい。
どんどん欲張りになるの。
ただ陣平くんが生きてるだけで良かったはずなのに…
陣平くんに会いたくてたまらなかった。」
素直にそう言って、泣きながら俺の身体にしがみついてくるミコト。
可愛いな。と単純に思った。