第25章 2年も早い異動
そして、また煙を吸おうとフィルターに口をつけた時、ミコトの発言に手が止まる。
「ううん。3人!アユと、りょうちゃん!」
「りょうちゃん?誰だそれ。男?」
初めて聞く名前。
それも、男か女かわからない名前だ。
思わずイラついた声を出しながらミコトに尋ねると、ミコトは楽しそうに笑った。
「残念ながら女の子ー!」
「なんだ。」
「もしかして、妬いた?」
当たり前だろ。
お前の口から他の男の名前なんて聞きたくねぇよ。
そう思いながらも、いくつになってもガキな俺は、咄嗟に虚勢を張る。
「バァーカ。そんなんじゃねえって」
「心配しなくても、陣平くん以外に興味ないよー!」
「お前が興味なくても向こうがあるだろ」
萩原の妹だけあって、端正な顔立ちしてやがるからな。ミコトは。
そう思いながらミコトの顔を思い浮かべると、無性にミコトに会いたくなって仕方ねぇ。
このまま、捜査会議なんかトンズラして会いに行きたいぐらいだ。
そう思ったのが神様に伝わったのか、屋上のドアが突然開いて、そこから佐藤の怒鳴り声がした。
「松田くん?そろそろ捜査会議始まるわよ?」
「あー…
悪い、ミコト。
今から捜査会議らしいわ。
また電話する。おやすみ」
「あ!陣平くん!」
「ん?」
「無理しないでね。
今度会う時、美味しいものたくさん作ってあげるから」
「あぁ。楽しみにしてる。
じゃあな」
ミコトにおやすみを言って電話を切り、タバコの火を消すと、俺は佐藤に呼ばれるがまま屋上を出た。
「仮眠取れって言ったのに。
私の言うこと全然聞かないんだから」
「まあそう怒んなよ。」
そうは言ったものの、捜査一課での初日は思った以上にハードだった。
1日のうち、ミコトの声を聞けたのはほんの30分だけ。
これからこんな日が多くなるんだろうな…
そう思うと、早く萩原を殺した爆弾犯を捕まえなきゃいけねぇのに。
こんな普通の事件に構っている暇なんて、ないんだよ。
そんな気持ちから、事件の捜査には全くもって身が入らなかった。