第23章 喧嘩のとある日 ☆
ヒートアップしたわたしが、さらに輪をかけて怒鳴ろうとした瞬間のこと。
陣平くんはわたしの手を引いて映画館のロビーのど真ん中で突然わたしの唇を奪った。
「っ…」
目を丸くして放心状態のわたし。
陣平くんはわたしに優しくキスをした後、べ。と舌を出しながら言う。
「これでも一緒に帰らねえの?」
「…ずるい」
キスされただけで、こんなに揺らぐわたしはどうしようもない。
結局わたしは陣平くんのことが、好きで好きで大好きで、彼には敵わない。
どんなに酷いこと言われても、どんなに怒っていても、たった一度のキスで全部が水に流れていく。
「っ…くやしい!!」
顔を膨らませて、もう一度そう言うわたしの頭をわしゃわしゃと撫でながら、陣平くんは余裕に笑って言った。
「じゃあ、特別に言葉でも伝えてやる。
約束を破って、悪かった。
お前が怒ってる理由もわからねぇでごめん。
お前のことが好きだから、仲直りしたい」
じっと目を見つめられてそんなことを言われると、わたしに抵抗する力はもう少しも残っていなかった。
「…………する」
小さい声で不服そうにそう返事をしたわたしを見て、陣平くんはまたわたしの髪を撫でた。
「よしよし」
このバカップルのくだらない喧嘩に巻き込まれた新出くんは、はは…と苦笑いをしながら会話に入ってくる。
「じゃあ、僕は帰るよ。
萩原さん、食事はまた今度」
「あ!うん。
新出くん、ありがとう…!」
ペコリと頭を下げると、新出くんはヒラヒラと手を振りながらわたしたちから立ち去った。
去っていくプリンスの後ろ姿を見ながら、陣平くんは捨て台詞を吐く。
「食事はまた今度って…
今度はねえっての!」
そう言いながら、陣平くんはわたしの手を引いた。
「ほら、帰るぞ」
「陣平くん…今更だけどその格好浮いてる」
「ご丁寧にどうも」
そんな口喧嘩をしながらも、わたしは大人しく陣平くんに手を引かれるがまま、彼の家に連行された。