第23章 喧嘩のとある日 ☆
そんなふうに黙る俺を見て、千速がまた俺を睨んだ。
「…まさかテメェ浮気したのか?!」
「するわけねぇだろ!
…今日眠すぎてデートドタキャンしたんだよ。
けどミコトがギャーギャーワガママ言うからつい苛ついて言い過ぎたんだ。」
言い過ぎたと認めると、千速ははぁっとため息を吐きながら真剣な顔をして俺を見た。
「…陣平。
あんた、ミコトが陣平とのデートの前、家でどんな風に過ごしてるか考えたことあるか?」
「あー?」
「着て行く服を選ぶのに1時間。
当日は朝早く起きて、シャワーを浴びて顔のパックまでして、メイクに何分もかけて、遅刻しないように予定より少し早めに家を出る。
それも、終始楽しそうに、鼻歌歌いながら。」
「…」
「ミコトが陣平とのデートを毎回どれだけ楽しみにしてるか、ちょっとは考えてやってくれよ」
そんなこと、誰よりも知ってるはずだった。
ミコトと待ち合わせをするとき、俺を見つけると幸せそうに笑う。
今日だって、待ち合わせに現れない俺をわざわざ家まで迎えに来たんだ。
もしミコトが俺の立場なら、そもそも待ち合わせに現れない時点で怒って帰るのに。
腕時計を確認すると映画がちょうど終わった頃だ。
「ちっ…しょうがねえな」
そうポツリと零した俺は、入ってきたコンビニのドアから外に飛び出し、部屋着のまま駅に向かって走り出した。